「確認」した?

人生で大切なことは、自身での「確認」である、という心情の元、気になったもの・ことへは、全力で駆け寄って行きます。

緻密に描かれた着物がとても美しい大和和紀さん著「ヨコハマ物語」

 
好きな着物漫画と言えば、かの有名な「はいからさんが通る」や「あさきゆめみし」の大和和紀さん著「ヨコハマ物語」です。 

 

 

舞台はタイトル通り、文明開化を迎えた港町横浜です。

あらすじ

新しいカルチャーがどんどん入って来る港町で、
大きな貿易商家に生まれた発展化のお嬢様(万里子)と、
その侍女(お卯野)という、生まれも育ちも違う女の子2人(とても仲良しになる)が、恋や家柄や仕事やヨコハマという場所柄発生してしまう差別などに向き合いながら、悩んだり迷ったりしながら成長する話、...とストーリーだけ聞くと、一見地味な感じがしないでもないですが、
文庫コミックの表紙帯に書かれた大和和紀さんのメッセージは以下です。

ヨコハマといえば、外国人墓地に中華街、港の見える丘 明治以降にできた町って、どこか外国みたいにきれいでオシャレ。
そんな町の出来始めに生きてた女の子って、きっと夢でいっぱいで...って始めたのがこの話です。
津田梅子も、川上貞奴も、明治を代表する女性たちは みんな横浜から海を渡りました。
今はもっと簡単に海外に行けるけど、明治の女性って、今の女の子よりもずっと勇気があって強かったって、思いません?

このメッセージを読んだ時点で、今とは「海外」という場所への意味合いがすごく違ったんだと思えることと、そこに生きた彼女たちの強さに触れてみたくなり、何か無性にワクワクしませんか?

年代や立場に合わせて着物をとても丁寧に描いている

昔の漫画だけあって、トーンはほぼ使われていないのですが(今は亡き手描きトーン...!)、
2人が着ている着物の柄がとにかくとても丁寧に描かれています。
しかもお嬢様とお付きの子という、立場の違いが着物にもちゃんと表れているのですね。
お嬢様の万里子のお着物は何と言っても豪華でお派手。
そして結婚するまでは振り袖ですよ。
縮緬っぽい半衿や、縦矢結びの帯、ヘアスタイルも常にお花や簪で飾っていて、全体がとても豪華です。
対するお卯野は、ウールや木綿の着物(だと思う)で働き者の着物として、全体的に質素で実用的な感じにまとまっています。
そうして万里子の年齢や立場から(お嬢様の着物の変化は分かりやすい)、どんどん装いも変化させて描いているのですね。

幼少時代(振袖&大きいリボン)

女学生時代(袴)

結婚前(振袖&まとめ髪)

結婚後(黒羽織)

しかも絶対同じ服装(着物・洋装合わせて)は出てこなかったです。

そいで女学生時代の袴時(ブーツではなく足袋&草履の組み合わせ)なのですが、袴丈が結構短くなっているのですね(ふくらはぎが見えるくらい?)。
当時そうゆう着方もあったのかしらと...。

洋装スタイルも着物と同じくらい素敵!

子供・少女時代が終わってからは、時代の流れから2人の洋装姿も頻繁に出てくるのですが、そのドレス(時代が時代だけに洋装の平服と言っても、全部ドレスっぽいデザイン)もいちいち素敵なのですね〜。
後ろのウエスト下辺りにボリュームが出る当時流行ったバッフルスタイルは、そのシルエットが元々大好物なのですが、
着物と同じくらいレースやフリルが丁寧に描かれていますよ。
鹿鳴館に出かけるシーンもあるのですが、その時はコルセットでウエストを締め上げるシーンもあります。
生まれたた時からゆるりと着物を着ていた日本人に、コルセットは当時大変だったんじゃないかなーと思いますが。
(今のビシッとした着付けは、戦後以降からなので...)

装いの工夫を仕事に活かす万里子

不慮の事故で父親の仕事(貿易商)を継ぐ事になった万里子は、
加賀友禅の反物でドレス作りを依頼したり(ドレス×簪風の髪飾りがオシャレ)、
荷として余ってしまったレースを使ってレースの半衿を提案したりして、現代着物のオシャレにも通じる何かが感じられます。
着物生地のドレスなどは、実際にあったようですね(江戸東京博物館に当時の人が身に着けていたであろう、とても小さなサイズの洋服が展示されていました)。

振り袖が蝶々のように広がる、という表現

貿易の仕事絡みから、途中で暴漢に襲われた万里子が、竜助(最初は店のために嫌々結婚することになった万里子の旦那)に抱き上げられた時、
振袖がまるで蝶々のように広がって、とても綺麗だったわよ、というイサドラ(竜介の以前の恋人)の表現がとても印象的です。
実際着物の学校の授業で振り袖を着装した時には、なぜかその「振り」にとてもテンションが上がりました...!
全然実用性はないのですけれど、それを「蝶々」と表現する大和和紀さんの感性がとても素敵です。

古さを感じさせないドラマチックなコマ割り

ラストシーンで、海難事故でもう二度と会えないと思っていた竜助と万里子が海辺で奇跡的に再会をして、
万里子が竜助に駆け寄って抱きつくシーンがあるのですが、
そのコマ割りが左右2ページ抜きで、とてもドラマチックになっています。
その時の万里子のヘアスタイルも、小粒パールが連なった髪飾りでポンパドールっぽいものを作った下に、長い髪を下の方まで垂らして、途中を大きなリボンで結んでいてとても可愛いです。

そうして、全てをなくしてしまったから、裸一貫一からやり直すけれど、待っていてくれるか?と言う竜助に対して、
「ずっと待っているわ。
今度は、わたしがあなたの港になるのよ...」
という画面は静かでとても綺麗でした。
物語の序盤で、竜助は万里子の事を「カモメ」だと表現しているのですね(どこに行っても必ずこのヨコハマに戻って来る、と)。
それを最終回で、万里子が港というふうに立場を変えていることと、
ヨコハマの港と万里子を引っ掛けているのも上手いですよね。

ページの3分の一スペース(柱スペース)のカットもすべてが美しい

よく作者の雑談スペースとして、コミックス版のみに収録されているあのエリアです。
物語内には出て来ていないカットで、豪華な着物姿の万里子やお卯野の姿が掲載されていますよ。
連載当時の表紙か何かだったのかなと。
ソロだったり、2人一緒にオルゴールを窓辺で静かに聴いているカットだったり。
そのすべてが美しい...。

大和和紀さんと言えば文明開化を逞しく生きる女の子

当時文庫漫画として発売された大和和紀さんの帯のキャッチがとても秀逸でした。
「文明開化の恋心!」
「花咲く恋の、大パノラマ!」
「恋はいつだって波乱万丈!」
「恋が、すべてのエネルギー!」
「今、結ばれる、ただ一度の恋!」

すごい勢いとパワーを感じますよね。
大和和紀さんイコール「はいからさんが通る」がとても有名ですが、
文明開化時代が舞台の漫画として、
「ヨコハマ物語」「N.Y.小町」も大変におすすめなので、興味のあるかたは着物柄なども考察しながら、ぜひ読んでみてください。